出来事の「内側」にある自分を見つめる:忙しい毎日で自己肯定感を育む物語セラピー
忙しい毎日の中で、出来事の「内側」にいる自分に気づく
日々の生活は、次々と起こる出来事の連続です。「あれをやらなきゃ」「これが終わった」「こんなことがあった」と、私たちは出来事の波に乗り、それに対応することに追われがちです。特に忙しい毎日を送っていると、出来事そのものに焦点を当て、それをどう処理するか、どう評価するか、といった外側の視点にばかり意識が向きやすくなります。
その結果、出来事の「内側」にある、自分自身の感情や考えが置き去りになってしまうことはないでしょうか。出来事に対する自分の素直な反応、その時心に浮かんだ些細な思い、そういった内側の声に気づかないまま過ごしているかもしれません。
物語セラピーは、こうした日々の出来事をただの「出来事」としてではなく、「自分自身の物語」として捉え直すことで、出来事の「内側」にいる自分自身を見つめ、自己肯定感を育むための一助となります。
物語セラピーとは何か
物語セラピーとは、自分の経験や出来事を物語として語ったり、書いたりすることで、自己理解を深めたり、感情を整理したりする心理的なアプローチの一つです。自分の人生や出来事を「物語」という形式で見ることで、客観的な視点が生まれやすくなり、感情的な距離を取って出来事を捉えることができるようになります。
専門的な治療法ではなく、誰でも日常生活の中で手軽に取り入れられるセルフケアの側面も持っています。自分の内面に優しく寄り添う時間を持つための方法と言えるでしょう。
なぜ出来事の「内側」を見つめることが自己肯定感に繋がるのか
では、なぜ日々の出来事の「内側」、つまり自分の感情や考えに意識を向けることが、自己肯定感の向上に繋がるのでしょうか。
- 感情や思考を「自分の一部」として受け入れやすくなる: 出来事そのものの評価に囚われず、「あの出来事の時、私はこう感じたのだな」「そう考えたのだな」と、自分の内側の反応を観察することができます。良い感情もネガティブな感情も、「その時の自分はそうだった」と、出来事とセットでまるごと受け入れる練習になります。
- 「あるべき自分」から解放されるヒント: 出来事に対して「もっとうまくやるべきだった」「こう感じるべきではなかった」といった外からの基準で自分を裁いてしまうことはありませんか? 物語として客観視することで、「あの時の主人公(私)は、精一杯〇〇と感じ、△△と考えたのだ」と、その時の精一杯だった自分を認めやすくなります。これは、「あるべき自分」ではなく「ありのままの自分」に寄り添うことへと繋がります。
- 出来事に対する「意味づけ」に気づく: 同じ出来事でも、人によって、あるいは自分自身の中でもその時の状況によって、感じ方や考え方は異なります。出来事の「内側」を物語ることで、自分がその出来事にどのような「意味」を与えているのかに気づくことができます。そして、もしその意味づけが自分を苦しめているなら、別の視点から物語を再編集する可能性も見えてきます。
手軽にできる実践方法:出来事の「内側」を物語る短いワーク
忙しい毎日の中でも、ほんの少しの時間でできる簡単なワークをご紹介します。日々の出来事を通して、自分の内側に意識を向ける練習です。
ワークの手順:
- 短い時間(5分~10分程度)を確保する: 静かに一人になれる時間を見つけます。通勤時間、休憩時間、寝る前の数分など、日常の隙間時間で構いません。
- ツールを用意する: 紙とペン、またはスマートフォンのメモアプリなど、書き留められるものを用意します。
- 最近あった出来事を一つ思い浮かべる: 今日や昨日、あるいは最近経験した出来事の中から、一つを選びます。大きな出来事である必要はありません。誰かとの短い会話、何かを見て心に留まったこと、ちょっとした失敗や成功など、どんなことでも構いません。
- 出来事を「物語のシーン」として簡単に書き出す: 選んだ出来事を、まるで物語の一場面を描写するように、客観的に書き出します。例:「今日の午前中、私は△△さんに話しかけた。」
- その出来事の「内側」にある自分を物語る: ここが最も重要なステップです。その出来事があった時、自分自身が心の中でどのように感じ、どのように考えていたかを、登場人物(自分自身)の心情描写として書き加えてみます。「その時、主人公(私)は少し緊張していた」「内心、『ちゃんと伝わるかな』と考えていた」「相手の笑顔を見て、ホッと安心する気持ちが湧いた」など、湧き上がった感情や頭に浮かんだ思考を率直に言葉にしてみましょう。
- 書き出したものを読み返す: 出来事とその時の自分の内側が描かれた短い物語を、改めて読み返してみます。「ああ、自分はあの時そう感じていたのか」と、気づきがあるかもしれません。
ワークを行う上でのポイント:
- 完璧を目指さない: 上手な文章を書く必要はありません。ただ、その時の自分の素直な感情や思考を書き出すことに意識を向けましょう。
- 判断しない: 書き出した内容が良いか悪いか、正しいか間違っているか、といった判断を加えないようにします。ただ、「そうだったんだな」と受け止める姿勢を大切にしてください。
- 短い時間で終える: 忙しい中で行う練習ですので、時間をかけすぎず、決めた時間内で終えるようにしましょう。
実践する上でのポイントや注意点
このワークは、特別なスキルを必要とするものではありません。最も大切なのは、「自分の内側に目を向ける時間を意識的に持つ」という習慣そのものです。
- 毎日でなくても大丈夫: 「毎日やらないと意味がない」と気負う必要はありません。週に数回、あるいは気が向いた時に行うだけでも、内面に意識を向ける練習になります。
- 書き出す以外の方法も: もし書くことが難しければ、静かな場所で目を閉じ、その出来事を思い浮かべながら、その時の自分の感情や思考を頭の中で言葉にしてみる、という形でも構いません。
- これは自己探求のアプローチです: このワークは、何かを診断したり、問題を解決したりするためのものではありません。あくまで、自分自身の内側にある声に耳を傾け、自己理解を深め、それを通して自己肯定感を育むための、穏やかなセルフケアであることを理解しておきましょう。
まとめ:出来事を通して、あなたという物語の「真ん中」にいる自分へ
忙しい毎日の中で、私たちはついつい出来事の波に流されてしまいます。しかし、どんな出来事の中にも、それを体験し、感じ、考えている「あなた自身」がいます。
物語セラピーの視点を取り入れ、日々の出来事を「報告」として処理するだけでなく、その「内側」にある自分の感情や思考を丁寧に言葉にすることで、自分自身の声に気づき、その存在を認められるようになります。
これは、自分という物語の脇役ではなく、「真ん中」にいる主人公としての自分を大切にする練習です。ほんの短い時間でも、日々の出来事を通して自分の内側を見つめる習慣を持つことが、自己肯定感を育み、心の余裕を取り戻すための一歩となるでしょう。ぜひ、あなたのペースで物語セラピーの世界に触れてみてください。