忙しい毎日で起こる「困った」を物語に:自己肯定感を守る物語セラピー
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日々の忙しさの中で、予期せぬ出来事や思うようにいかない状況に直面することは少なくありません。そうした「困った」と感じる出来事は、私たちの心に負担をかけ、知らず知らずのうちに自己肯定感を揺るがすこともあります。
「どうして自分ばかりこんな目に遭うのだろう」「自分がもっとちゃんとしていれば…」
このように、困難な出来事があったときに自分を責めてしまい、さらに心が疲れてしまう方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この記事では、忙しい毎日の中で直面する「困った」出来事を、物語セラピーの視点からどのように捉え直し、自己肯定感を守り、育んでいくかについて解説します。手軽に始められる考え方やワークもご紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。
物語セラピーとは何か
物語セラピーは、私たちが経験する出来事や感情、自分自身の認識などを「物語」として捉え直し、その物語を通して自己理解を深め、新たな意味を見出し、自分らしい生き方を見つけていくアプローチです。
私たちの人生は、一つ一つの出来事が連なり、紡がれていく壮大な物語とも言えます。物語セラピーでは、この「自分の物語」を客観的に眺めたり、別の角度から語り直したりすることで、抱えている問題や自分自身に対する見方を変えていきます。
これは、専門家との対話を通じて行う場合もあれば、個人で日記のように書き出すなど、様々な形で行うことができます。
なぜ「困った」出来事を物語にするのが自己肯定感に繋がるのか
忙しい日々の中で起こる「困った」出来事を物語として捉えることには、自己肯定感を守り、育むための大切なメカニズムがあります。
1. 客観的な視点を持つことができる
困難な出来事の渦中にいるとき、私たちは感情的になり、視野が狭くなりがちです。しかし、その出来事を「一つの物語」として距離を置いて眺めることで、感情から少し離れ、客観的に状況を理解する視点を持つことができます。まるで、自分が主人公の物語を読んでいるかのように、冷静に出来事の流れや登場人物(自分自身や他者)の行動、その背景などを捉えられるようになります。この客観性が、自分を過度に責めたり、必要以上に落ち込んだりすることを防ぎます。
2. 出来事の意味を「再編集」できる
どのような出来事にも、様々な側面があります。「困った」と感じる出来事も、見方を変えれば、そこから学びを得たり、自身の強みに気づいたりする機会となり得ます。物語として語り直す過程で、「この出来事は私に何を教えてくれたのだろう」「この状況で、私はどのように乗り越えようとしただろう」といった問いを自分に投げかけることができます。これにより、ネガティブに捉えがちだった出来事に新たな意味を与え、「困難を乗り越えた自分」「成長した自分」という肯定的な物語へと再編集することが可能になります。これは、自己肯定感を高める上で非常に強力なプロセスです。
3. 自分自身の回復力(レジリエンス)に気づく
困難な状況を経験し、そこから立ち直ろうとするプロセスそのものが、あなたの内に秘められた回復力や強さの証です。物語として出来事を振り返る中で、「あの時、自分はこんな工夫をしたな」「こんな風に気持ちを立て直したな」という自身の行動や感情の動きに気づくことができます。これらの気づきは、「自分には困難を乗り越える力がある」という自信に繋がり、自己肯定感を育みます。
忙しいあなたへ:手軽にできる「困った」を物語にする実践方法
では、日々の忙しさの中でも取り組みやすい、「困った」出来事を物語として捉える簡単な方法をご紹介します。特別な準備は必要ありません。休憩時間や寝る前など、少しだけ時間を見つけて試してみてください。
1. 「困った出来事シート」を書いてみる(5分〜10分)
ノートの片隅やスマートフォンのメモ機能でも構いません。以下の点を簡単に書き出してみましょう。
- 今日、または最近、あなたにとって「困ったな」「嫌だな」と感じた出来事はなんですか?(具体的に書く)
- その出来事があったとき、あなたはどのように感じましたか?(例:「腹が立った」「悲しかった」「自分が情けなくなった」など)
- その出来事に対して、あなたはどのように行動しましたか?(具体的に書く)
- もし、この出来事を「物語のワンシーン」として見るとしたら、あなたはどんな登場人物だと思いますか?(例:「頑張っているけど報われない主人公」「ちょっとドジな脇役」「壁にぶつかる冒険者」など)
- このシーンにタイトルをつけるなら、どんなタイトルにしますか?
ほんの数行でも構いません。書き出すことで、感情の渦中から少し離れ、出来事を客観視する第一歩になります。自分を責めるような言葉ではなく、「事実」と「その時の感情」を分けて書くことを意識してみてください。
2. ポジティブな「語り直し」を試す(3分〜5分)
書き出した「困った出来事シート」を見ながら、あるいは心の中で、その出来事を少しポジティブな角度から語り直す練習をしてみましょう。
例えば、「プレゼンで失敗して恥ずかしかった」という出来事があったとします。
- 元の語り: 「プレゼンで大失敗して、本当に情けなかった。自分はダメだ。」
- ポジティブな語り直し: 「あのプレゼンではうまくいかなかったけれど、次に活かせる改善点が見つかった。それに、緊張する中でも最後までやり遂げた自分もいる。この経験は、きっと次につながる学びになるだろう。」
このように、失敗そのものを否定せず、そこから得られた気づきや、困難な状況で奮闘した自分自身に焦点を当ててみましょう。大げさでなくても構いません。ほんの少しでも肯定的な側面を見つけ出す練習が、自己肯定感を育む力になります。
3. 「もし、この後物語が続くとしたら?」と考えてみる(数分)
「困った」出来事は、物語の終わりではありません。その出来事が起きた後、物語がどのように展開していくかを想像してみましょう。
- この出来事を乗り越えた主人公は、どうなると思いますか?
- この経験が、その後の物語にどう影響するでしょうか?
- 困難を乗り越えるために、主人公は次にどんな行動をとるでしょうか?
未来の物語を創造することで、現在の困難な状況から抜け出し、「次にどうするか」という前向きな視点を持つことができます。これは、問題解決の糸口を見つけたり、希望を持つことに繋がります。
実践する上でのポイントや注意点
- 完璧を目指さない: 最初はうまくいかないと感じることもあるかもしれません。完璧に物語を語り直そうとする必要はありません。まずは、出来事を書き出す、少し違う視点から見てみる、といったことから始めてみましょう。
- 自分に優しく: 「困った」出来事に向き合うことは、時に辛い作業でもあります。無理強いせず、心が疲れているときは休憩しましょう。自分を責めるのではなく、「辛い状況の中でも、物語にしようとしている自分」を労ってあげてください。
- 小さな出来事から試す: 最初から大きな悩みやトラウマとなるような出来事に取り組む必要はありません。通勤中の小さなトラブル、今日のランチで起きたちょっとしたことなど、日常の些細な「困った」から試してみると良いでしょう。
- 継続は力なり: 一度行っただけですぐに大きな変化を感じられないかもしれません。毎日数分でも良いので、継続して取り組むことで、徐々に物事の捉え方や自分自身への見方が変化していくのを実感できるはずです。
まとめ
忙しい毎日で起こる「困った」出来事は、避けられないものです。しかし、物語セラピーの考え方を取り入れ、これらの出来事を「自分の物語の一部」として捉え直すことで、感情に振り回されず、客観的に状況を見つめることができるようになります。
出来事に新たな意味を見出し、自分自身の強さや回復力に気づくことは、自己肯定感を守り、育むことに繋がります。今回ご紹介した簡単なワークは、手軽に日常に取り入れられるものです。
日々の忙しさの中で、つい自分を後回しにしてしまう方も、少しの時間を使って「自分の物語」に目を向けてみませんか。小さな一歩が、心にゆとりをもたらし、自己肯定感を育む大切な機会となるでしょう。
物語セラピーを通じて、困難な出来事さえも自分を成長させる力に変えていくことができるはずです。ぜひ、今日からあなたの物語を紡ぎ始めてみてください。