日々の出来事を肯定的に「再編集」する:物語セラピーで自己肯定感を育む方法
忙しい毎日の中で、出来事に追われていませんか?
日々の生活は、予測不能な出来事の連続です。朝起きてから夜寝るまで、仕事のこと、家庭のこと、人間関係のことなど、様々な出来事が起こります。
時には嬉しい出来事もありますが、思い通りにいかないこと、失敗だと感じること、あるいはただただ忙しさに追われる中で、目の前の出来事をネガティブに捉えたり、「どうして自分ばかり」と感じたりすることもあるかもしれません。
そんな時、私たちは知らず知らずのうちに、出来事に対する「物語」を心の中に作り上げています。そして、その物語が、私たちの感情や自己肯定感に大きな影響を与えることがあるのです。
物語セラピーとは何か?出来事を「物語」として捉える視点
物語セラピーは、心理療法の一つですが、その考え方の基本は、私たちの人生や日々の出来事を一つの「物語」として捉え直すことにあります。
人生には「主人公」(自分自身)がいて、様々な「出来事」(エピソード)があり、そこには「登場人物」(周囲の人々)や「テーマ」が存在します。物語セラピーでは、これらの要素を客観的に眺めたり、違った視点から「語り直したり」「書き換えたり」することで、自分自身や出来事に対する捉え方を変え、心の状態をより良い方向へ導いていきます。
難しいことのように聞こえるかもしれませんが、日々の出来事を「ちょっとした短い物語」として見てみる、という感覚で捉えていただくと分かりやすいかもしれません。
なぜ出来事を「再編集」することが自己肯定感に繋がるのか
私たちは、同じ出来事であっても、その出来事にどのような「意味づけ」をするかで、全く異なる感情を抱きます。例えば、電車の遅延という出来事があったとします。
- 「遅延のせいで待ち合わせに遅れた。また失敗した。自分はいつもこうだ。」→ネガティブな意味づけ → 自己肯定感の低下に繋がりやすい
- 「遅延で少し時間に余裕ができた。本でも読もうか。」→ポジティブな意味づけ → 心の余裕や新たな発見に繋がりやすい
物語セラピーでは、この「意味づけ」の部分に焦点を当てます。特に、ネガティブに捉えがちな出来事を、別の角度から「再編集」する、つまり別の意味や解釈を与えてみることで、心の状態や自己肯定感を変化させることができます。
これは、心理学でいう「リフレーミング」という考え方にも通じます。枠組み(フレーム)を変えて物事を捉え直すことで、別の意味や価値を見出す方法です。
物語として出来事を眺め、「この出来事は、私に何を教えてくれたのだろう?」「もし、この出来事を物語の展開として捉えるなら、次に何が起こるだろう?」のように問いかけてみることで、ネガティブに見えた出来事の中に、学びや成長の機会、あるいは単なるハプニングとしての面白さを見出すことができるようになります。
このように、出来事を「自分を責める材料」としてではなく、「物語の興味深いエピソード」として再編集する練習をすることで、自己肯定感を少しずつ育んでいくことができるのです。
忙しい毎日で試せる!日々の出来事を「再編集」する簡単なワーク
それでは、日々の忙しさの中でも手軽に試せる、出来事を「再編集」して自己肯定感を育むための物語セラピー的なワークをいくつかご紹介します。
ワーク1:今日の「小さな出来事」を書き出してみる
- ノートやスマートフォンのメモ機能などに、今日あった小さな出来事を3つほど書き出してみましょう。特別なことである必要はありません。
- 例:「朝、コーヒーを淹れたら少しこぼしてしまった。」
- 例:「通勤途中で綺麗な花を見かけた。」
- 例:「仕事で一つ小さなミスをしてしまった。」
- それぞれの出来事について、その時自分がどう感じたかも簡単に書き添えてみましょう。
このワークは、まず自分の身に起こった出来事を客観的に「記録」する練習です。出来事と自分の感情を切り離して見る第一歩になります。
ワーク2:ネガティブな出来事を「別の見出し」で書いてみる
- ワーク1で書き出した出来事の中で、もしネガティブに感じたものがあれば、その出来事を「物語の見出し」のように別の言葉で表現してみましょう。
- 元の見出し(ネガティブ): 「また失敗…コーヒーをこぼして最悪な朝」
- 再編集した見出し(ポジティブまたは中立):
- 「朝から少し慌ててみた日」
- 「コーヒーの香りが部屋中に広がった瞬間」
- 「新しい掃除方法を試すきっかけとなった出来事」
- ポイントは、出来事の「事実」は変えずに、それに与える「解釈」や「意味合い」を変えることです。ユーモアを交えたり、ポジティブな側面に光を当てたりしてみましょう。
これは、出来事の「枠組み」を意図的に変える練習です。「最悪」だと思っていた出来事も、見方を変えれば違った側面が見えてくることを体感できます。
ワーク3:出来事を「成長の機会」として捉えてみる
- ネガティブに感じた出来事について、「もしこの出来事が、自分が成長するための物語の一部だとしたら、ここから何を学べるだろう?」と問いかけてみましょう。
- 例:「仕事でミスをした」という出来事。
- 学びの視点からの再編集:
- 「確認の大切さを改めて学ぶエピソード」
- 「同僚に助けを求める勇気を出せた一歩」
- 「次に同じミスをしないための貴重な経験」
- どんな小さな出来事からでも、学びや気づきを見つけ出す視点を持つ練習です。
このワークは、自分を責めるのではなく、出来事から何かを得ようとする前向きな姿勢を育みます。失敗も「終わり」ではなく「途中経過」として捉え直すことができます。
これらのワークは、それぞれ1分〜5分程度でできる短いものです。寝る前に数分だけ、あるいは通勤中の短い時間などに試してみてはいかがでしょうか。
実践する上でのポイントや注意点
- 完璧を目指さない: 毎日続けられなくても、無理のない範囲で試してみましょう。義務になると負担になってしまいます。
- 感情を否定しない: まずは、出来事に対して自分がどう感じたかを正直に受け止めることが大切です。ネガティブな感情を無理にポジティブに変えようとする必要はありません。その上で、「別の見方もできるかな?」と考えてみるのが良いでしょう。
- 楽しむ感覚で: これは「セラピー」という言葉がついていますが、自分自身と向き合うためのツールの一つです。ゲームのように、あるいは自分だけの「物語の編集者」になったつもりで、気軽に試してみてください。
- 記録を残す: 書き出すことは、頭の中を整理し、後で見返して自分の変化に気づく手助けになります。
まとめ:日々の「再編集」で、自己肯定感を育む物語を紡ぐ
忙しい毎日の中では、ついネガティブな出来事に囚われたり、自分自身を責めてしまったりしがちです。しかし、物語セラピーの考え方を取り入れ、日々の出来事を「物語」として捉え直し、肯定的に「再編集」する視点を持つことで、心のあり方を変えることができます。
ご紹介したワークは、どれも短時間で手軽にできるものです。完璧にこなすことよりも、まずは「出来事には色々な見方があるんだな」「この出来事から、私は何を学べるだろう?」と問いかけてみる習慣をつけることから始めてみてください。
日々の小さな「再編集」の積み重ねが、自分自身に対する見方を変え、自己肯定感をゆっくりと、しかし確かに育んでくれるはずです。あなた自身の物語を、あなた自身の手で、より豊かに紡いでいきましょう。